昨日から野原で寝ているのは
 レイド・ライト。
 すっかりなにもかもにくたびれ果てて、
 とにかく、
 起きあがりたくなるまで、
 寝っ転がっているつもり。


 季節は春。
 タンポポの花。
 流れてゆく白い雲と、
 上に行けば行くほど深い青の空。
 やわらかい風。

 春、
 いつも俺は、
 誰かに
 恋をした。
 そして
 傷ついた。
 たまに上手くやったもんだが、
 結局
 最後には、
 かならず
 傷ついた。


 季節は夏。
 照りつける日射し。
 生ぬるい風。
 夏の木々は力にあふれ、
 葉の輪郭までもが、
 やけに鋭い。

 夏、
 ガキのころ
 いつも俺は、
 親父と海に行った。
 そして大人になると、
 夏が来るたびに、
 それを思い出した。
 親父はいつでも
 ずっと遠く、
 沖のほうまで泳いで行った。
 それを
 砂浜から見ているのが、
 好きだった。


 季節は秋。
 赤や黄色の枯葉が舞い散る。
 夕焼け空はますます赤く、
 夜になると風が冷たい。

 秋、
 いつも俺は、
 新しい長袖のシャツを
 買ってもらった。
 赤と黒のチェックのシャツが
 なぜか
 今でも忘れられない。
 だけど
 あのシャツがどこに行ったのか、
 俺は知らない。
 捨ててはいないはずなのに。
 ああ、
 もうあのシャツを
 着ることもないだなんて。


 季節は冬。
 北風が野原に吹きつけ、
 レイド・ライトは寒さに凍えた。
 だけど
 雪が風に吹かれるままに
 流されて飛んで行くのを
 下から見上げるのは、
 すばらしい気持ちだった。

 冬、
 俺はいつも
 コートの襟を立てて、
 誰も
 俺のことなんて待っちゃいない
 アパートに帰った。
 道すがら、
 どの家のリビングにも
 灯りがともっていて、
 笑い声や
 話し声が
 聞こえてきてた。


 ああ
 いろんな思い出を
 語り尽くしたら、
 俺は
 このまま
 死んでしまおう。

 なのに
 夜空は
 こんなにも美しい。

 自分のことまで
 あの夜空と同じくらいに
 美しく感じる。

 きっと俺は
 本当は
 とても美しいんだろう。
 ただ、
 上手くやれなかっただけさ──。


 一月一日
 野原に転がる骸骨ひとつ。
 遠くから打ち上げられる
 正月の花火の光で
 赤や
 黄色に
 染まりながら
 空を見上げる。