彼女の世界
薄暗いバーで
彼女は、
自分がいかに
世界を知っているか
つらつらと
俺に語ってみせた。
彼女は確かに
世界のことを
なんでもかんでも
よく知っていた。
彼女が生きている
世界のことだけは。
だけど
世界には
彼女が生きているものの他に
いくつもの世界があった。
そして
彼女は
その
いくつもの世界の存在を
知らないばかりか、
自分が知らないという事実を
疑うことすらしなかった。
だけどきっと
心のどこかで
不安を感じていたから、
ああやって、
自分の世界のことばかり話すんだろう
と
思いながら、
俺は
話を聞いていた。
その夜
俺と
彼女は
一緒に寝た。
彼女は
まっ暗いベッドの中で
服を脱ぎ、
脱いだ服を
ベッド・サイドに
適当に放り投げた。
俺も
服を脱いで
俺たちは
抱き合った。
肌と肌が触れて
背中に手を回しても
彼女は
自分が世界を知らないのに
知ってるふりをしてるって
認めようとしなかった。
俺は なんだか
彼女がかわいそうになって、
なにもせず
そのまま眠った。
彼女はきっと
俺と寝れば
俺の世界が手に入ると思ってた。
だけど
そんなものはまやかしだとも、
彼女は知ってた。
だから
そんなことは
どうしても
できなかった。
彼女は
自分でも知らないうちに、
そうやって、
狭い世界を生きていくことを
選んでいた。
そして
俺は
それに耐えられなくなって、
三度目に会った日からは、
部屋に上げなくなった。
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