貝殻姫
1、
深く、暗い海の底。
光の揺れる海面をはるか見上げながら、
貝殻姫が泣いていた。
もう何年、そうしているだろう。
2、
足を鎖で大きな貝がらにつながれ
どこに動くにも
重たそうにそれを引きずって。
3、
むかし、
まだ貝殻姫が本当にお姫様だったころ。
王様とお妃と乗った船の上で、
自分の姿を鏡に映していたら、
海の中からそれを見ていたジャルラドゥーラに、
そのかわいさを嫉妬された。
4、
ジャルラドゥーラは、
貝殻姫を海に引きずりこむと、
彼女そっくりに化けて船に戻っていった。
5、
それから彼女は誰に会うことも、
話すことすら許されず、
ずるずると貝殻を引きずりながら、
海の底を歩いていた。
6、
いっぽう、
ジャルラドゥーラは王女様として愛されて、
となりの国の王子様と結婚し、
子供を二人作り、
幸せに幸せに暮らしていた。
7、
美しい貝殻姫の姿を借りて、
幸せに暮らしているうちに、
いつしか心まで美しく温かくなった。
8、
王様もお妃も死んで、
王子とジャルラドゥーラが、
新しい王様と新しいお妃になった。
9、
そしてやがて、
ふたりも死んで、
その子供たちが国を継いだ。
10、
貝殻姫は、
まだ海の底で貝がらに繋がれていた。
ジャルラドゥーラに姿を奪われて、
歳を取ることもできなかった。
11、
毎日毎日泣きながら、
海の上に戻りたいと願うも、
海の上の世界がすっかり変わり果てて、
自分の知らない場所になってしまったに違いないことと、
自分の知っている人も、
自分を知っている人も、
誰もいないことを思うと、
ときどき、
戻るのが怖くてたまらなくなった。
12、
貝殻姫は来る日も来る日も、
両手を合わせて神様に祈り続けた。
「どうか歳を取らせて下さい」と。
ある日神様はそれを聞いて、
すっかり胸を痛めると、
ジャルラドゥーラを懲らしめて、
貝殻姫に歳を取らせた。
13、
深く、暗い海の底。
貝殻姫は、
あっという間に歳を取っていった。
14、
あとに残ったのは貝がらと、
髪の毛と
貝殻姫の骨だけ。
海の底、海草に絡まって揺れている。
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