九月六日(月)
フォームで読者の方に怒られた。そりゃそうだ。一方、同じくフォームで、『Good Luck』を読んでくださった方から、とても嬉しいメッセージを頂いた。ずっと前に、『Good Luck』を購入したが大学院の入試が終わるまで読むのは待ちますというメッセージを送ってくれた方だった。無事に大学院に合格なさったとか。おめでとうございます。
夕方、八王子の高倉でカフェ(『Roots』というカフェで、セキド電気のすぐ近く)のマスターをしているコウさんと電話。コウさんとは、かれこれ十年以上の付き合いだが、もう七年くらい会っていない。兄が通っていた大学で知り合い、仲良くなり、同じカラオケ屋でバイトをした(ちなみにそのカラオケ屋ではバイト同士が不気味なほど仲良く、今でも、コウさん含めて三人くらいは連絡を取り合っている)。バイク仲間でもあり、音楽仲間でもあった。この間、彼のカフェに行こうと思ったら、目印にしていたチェーンの電気屋がちがう店舗で、おまけに、「カフェどこよ!」と電話してみたら、定休日だった。コウさんは昔っから、「いつかカフェやりてぇなぁ」と話していた。だから、ちょっと前に久しぶりに連絡を取り、「実は俺、カフェ開いちゃった!」と聞いたときは、本当に感動した。一緒に行きたいと思える人がいるのもよかった(結局僕がろくろく確認せず勇み足したせいで、ふたりして炎天下の公園でアクエリアスとか飲むハメになっちゃったけど)。コウさんの娘は、本屋で『Good Luck』を見かけると「シモンさんの本だ!」と喜んでくれるという。まだ会ったことないのに、なんと嬉しい。
話が弾む。フリー同士、なんだか変なとこでお互い「そうだよなあ!」と意気投合する。こういうツーカーな開放感は、なかなか味わえない。すごい気持ちよさ。かつて意気投合していた仲間と、新しくそういう共通認識が持てるというのは、こんなにも楽しいことか。同じような体験を通した人には、安心して投げ出せる部分があるものだ。しかも、奥さんのご実家がウチの実家から車で二十分とかそんなもんで、僕がかつて夜中に忍び込んだ動物園(コアラ死んだけど)に、家族でよく出かけるそう。今度佐々木彩子さんのライブが行われるレストランも知っていた(ライブは9/13の午後7時から。2,500円で、ステキな音楽と美味しい軽食つきです。ぜひどうぞ)。旧友とは、また新しい友人でもあると、すごく実感した。コウさん、今度会いに行くね。
夜、明大前の沖縄居酒屋『宮古』にて、兄と、兄の会社の社長であるシモノさんと食事。行きがけに仙川でワインを一本購入。外に出ると、多少体の調子もよくなる。家にずっといると、悪くなる。シモノさんと会うのは久しぶりだと思っていたら、兄と会うのもかなり久しぶりだった。つい最近会ったとばかり思っていたが、それは僕の記憶ちがいだったようだ。三人で会うのなんて一年以上振りのこと。
ワイン、とても喜んでもらえて嬉しかった。思えば、どんなに祝福の気持ちがあっても「人に贈り物をする」ということを、僕はほとんどしたことがなかった。大学を卒業してから今日にいたるまで、まあ、財布がおおむねすっからかんだったということもあるが、それよりなにより、そういうことをお互いにし合うような場所にいたことがなかったからだ。良い悪いという話ではなく、「気持ちを込めて人に贈り物をする」ということをしない場所もある。僕はずっと、そっち寄りの人間だった。だから、僕の持っていったワインを楽しそうに手に取るふたりの姿に、かなり新鮮な感覚をおぼえてしまった。前にもそんなことがあったのかもしれないが、気持ちとしては初体験に近いことで、なんだか気恥ずかしくなった。そういえば、人に物を贈られるのが、僕はものすごく苦手である。自分の誕生日なども頑なにお祝いをこばみ、付き合っている女の子を困らせたこともあった。人に料理を作ってもらっても、どんな顔で食べていいのか分からない。僕は、気持ちを伝えるのも受け取るのも下手な、がさつな人間だ。最近、それを痛感することが多い。だから人付き合いがあまり得意ではないのだというところまでは、実感としてようやく分かった。これは、齢三十にして言うようなことではないだろうが、僕にとって、かなり大きな一歩であるといえよう。最近、また他の人にもプレゼントをして、そのときも「俺がこんな気持ちになるとは」と驚いたのだが、こういうわけだったか。今日になってようやく理解した。
歳をとり、若いころに知らず知らず思い切り踏んだひとこぎはその惰性を失い、自転車はもう停止寸前。気づけば、スピードに乗って呑気に過ごしていた時期に、僕は風を切る気持ちよさに目をつぶってばかりで、景色を注意深く観察しようとはしていなかった。そういうツケは、必ず回ってくる。僕はなんとかそれでも自転車を前に進めようと体をゆすったりしてみるが、自転車はただふらつくばかりで、たまにちょっとした下り坂に偶然出会って胸を撫で下ろすことがあったとしても、そんなものは、ただの気休めにしか過ぎないのだ。僕はついに自転車を降りることになり、路傍の切り株に腰かけて頭を抱えて座り込み、ため息をつき、首を横に振り、「俺の自転車はどうしてしまったんだ」と顔を上げ、愛車に目をやる。
「なんだ。よく見ればペダルがついてるじゃないのよ」
当たり前のことに今さら気づき、僕は、自分の馬鹿さ加減にあきれ果て、恥ずかしくなり、すっかり具合を悪くする。
今日は、読者の方から届いた二通のフォームも、コウさんと電話したことも、兄とシモノさんと明大前で会ったことも、なにもかも、とてもよかった。みなさんありがとう。まったく僕は、馬鹿者です。
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