この記事は、以下のような状況にあるECショップ運営者の方に向けて書いています。
- ある程度の顧客数が既についている
- 検索などで商品やショップが表示されて露出度は悪くない
- 既存客の年間購入回数が1~2回
- 売上の基礎はできているが、さらに右肩上がりにしたい
ある程度の既存顧客の母数があるECとして基本的な体制は整っており、難易度の高い新規開拓ではなく既存客の客単価を増やして(リピート回転率を上げる)ショップの売上を拡大させたいという方が対象です。
既存顧客の確保はまだの場合ですか? 以下をお読みください!
前回記事をまだ読んでいない方へ
もしあなたのショップがまだ顧客の確保ができていない場合は、基本的な商品ラインナップが脆弱でないか確認してみてください。
売れるための基礎的な商品ラインナップ拡充の「縦軸・横軸」の考え方は『前回の記事』をご覧ください。
商品の「幅(横軸)」と「深さ(縦軸)」を整えることが、ECの売上基盤を作る第一歩です!
ただし、縦横軸のような大量の商品登録が行えない事情がある方は、今回紹介する「時間軸」での施策を試してみてください。少ない商品数でも、時間的な動きを加えることで売上改善が期待できます。
それでは本題に入っていきましょう。
一定の商品数と顧客がいて、なぜ売上が伸び悩む?
現場でよく聞く悩みの声
Aさん「固定のお客さんはいるけど、リピート頻度は高くないなぁ」
Bさん「もっと買ってもらいたいけど、同じ商品だからお客さんは飽きちゃうのかな?」
Cさん「世間のイベントに対して、ウチの商品とどう結びつければいいか分からない…」
ある店主の悩み
オンラインストアの基本的な体制は整った。商品も縦横軸で充実させた。検索でも見つけてもらえるし、購入率も悪くない。でも、売上が横ばいなんだよな…
売上データを調べると、多くの人が年に1〜2回しか買っていない。
「もっとリピートさせたいけど、通常商品の購入頻度を上げるアイディアがない…」
今より購買を促進させる具体的な方法が思い浮かばず、現状維持の日々になってしまっている。
売上をさらに伸ばすには「時間軸の商品」を加える
最初に難易度の話をすると、顧客を新規開拓するよりも既存客の客単価を増やすほうが楽です。
ショップに固定客がついている状態で売上を伸ばしたいのなら、顧客が買いたくなる時間軸で変動する商品ラインナップの拡充が重要です。
時間軸とは1年間を通じて商品ラインナップに「時間的な動き」を加えること。
これにより、顧客の購買機会を創出し、年間の客単価(LTVは後述)を引き上げることができます。
既存顧客の単価を増やして、新規開拓に頼らずにショップ全体の売上を上げることを目的とした施策が、時間軸を意識した商品ラインナップ戦略です。
「年間客単価(LTV)」という考え方
ここで重要な概念がLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)です。
LTVとは一人の顧客が生涯(または一定期間)に、あなたのショップで使う金額の合計のことです。例えば…
顧客A:年に2回購入×1回5,000円 → 年間購入額 = 10,000円
顧客B:年に6回購入×1回3,000円 → 年間購入額 = 18,000円
顧客Aが典型的な年間の大型セールでしか買わない層に対して、日常的にショップを利用するのが顧客Bです。
一回の購入額が低い顧客でも、購入回数を増やせれば年間LTVは大きく変わってショップ全体の売上に影響を与えられます。
時間軸って? 商品ラインナップに「動き」を加える
前回の記事では、商品ラインナップの「量(横軸)」と「種類(縦軸)」を整えることをお伝えしました。いわば売れるようにするための定番ラインナップの整備です。
今回は、商品ラインナップに『時間的な動き』を加えるラインナップの応用です。
この記事で言う時間軸とは1年間を通じて、商品ラインナップを意図的に「追加・削除・維持」することで、顧客に「今買う理由」を提供し続ける戦略です。
時間軸がもたらす3つの効果
①購買機会の創出
季節やイベントに合わせた商品を出すことで、「今買う理由」が生まれます。
②希少性の演出
「いつでも買える」商品より「今しか買えない」商品の方が、購買意欲が高まります。
③顧客の再訪問を促す
「来月は何が出るんだろう?」という期待感が、定期的なショップ訪問につながります。
時間軸による商品ラインナップ施策:6つの方法
それでは、具体的に時間軸をどう活用するのか、具体的な方法をご紹介します。
あなたの取扱商品によってはマッチしない手法も混ざっているため、まずは自店舗に合いそうな手法から検討してみてください!
1. 季節商品の販売
世間のイベントや季節に連動した商品を販売する方法です。
具体例
・バレンタイン(2月): チョコレート、ギフトセット、ラッピング用品
・クリスマス(12月): パーティー用食材、装飾品、ギフト商品
・行楽シーズン(春・秋): アウトドア用品、お弁当グッズ、保冷バッグ
効果
顧客は「今の季節に合った商品」を求めています。
馴染みの店(つまりあなたのショップ)で季節商品を見かけることで「そうだ、これ買わなきゃ」という購買動機が生まれます。
運用のポイント
・季節の1〜2ヶ月前から販売開始(早めの準備需要を取り込む)
・シーズン終了後は速やかにラインナップから削除(来年までお預け)
・毎年同じ商品を出すことで「今年もこの季節が来た」という期待感を作る
2. ギフト需要に備えた商品展開
年間を通じて存在するギフト需要に対応した商品を、時期に応じて目立たせる方法です。
具体例
・お中元(7月)、お歳暮(12月): 詰め合わせセット、高級品
・母の日(5月)、父の日(6月): 感謝を伝えるギフトセット
・敬老の日(9月): 健康志向商品、詰め合わせ
・誕生日(通年): ギフトラッピング対応商品
効果
ギフト需要は必ず存在するタイミングが決まっています。
その時期に「ギフトに最適」という見せ方をすることで、購買を後押しできます。
普段よりも詰め合わせ系や高単価商品が売れやすいシーズンなので、売上を増やしたいならギフトシーズンにはしっかり対応しましょう。
運用のポイント
・ギフト商品は通年で用意しつつ、該当時期にトップページや特設ページで目立たせる
・「のし対応」「メッセージカード同梱」などのサービスを明記
・贈答用の化粧箱入り商品をこの時期だけ販売する
3. 意図的に在庫を調整して時限性を持たせる
商品に「いつでも買えるとは限らない」という不定期性を持たせる方法です。
具体例
・人気商品を「月間100個限定」として販売
・売り切れたら翌月まで買えない
・「次回入荷は◯月◯日予定」と告知
効果
「いつでも買える」より「今買わないと次はいつ買えるか分からない」という心理が働き、購買意欲が高まります。
ただしやり過ぎると反感を買うため注意! 日用品はNG。嗜好性の高い商品の方が相性が良いです(いま買えなくても困らないが売ってるなら買いたいというライン)。
運用のポイント
・本当に人気のある商品で実施(売れ残ると逆効果)
・「限定◯個」を明示して希少性を演出
・売り切れ後も商品ページは残し「次回入荷予定」を表示して期待感を維持
4. 新商品の定期投入リズムを作る
新商品を定期的に投入することで、顧客が「チェックする習慣」を作る方法です。
具体例
・毎月第1週に新商品を数点追加
・「毎月1日は新商品の日」としてブランディング
・メルマガやSNSで「今月の新商品」を告知
効果
顧客が「今月は何が出るんだろう?」とショップを定期的に訪問する理由が生まれます。
訪問頻度が上がれば、普段買い以外の商品に気付く機会も増えるため、商品の試し買いなどで購買機会も増えます。
運用のポイント
・投入リズムを崩さない(顧客の期待を裏切らない)
・新商品は最低3ヶ月は販売継続(すぐに削除すると不信感)
・人気が出なかった商品は3ヶ月後に削除し、次の新商品を投入
5. オリジナルの時間軸を作る
世間のイベントに頼らず、あなたのショップ独自の時間軸を作る方法です。
具体例
・創業記念日: 毎年の創業日に限定商品を販売(例:割安な創業記念セット)
・時間限定販売: 平日の夜だけ通常商品の容量違い・低価格版を販売
・曜日限定: 毎週金曜日だけ「週末準備応援セット」を販売
・月替わり企画: 「今月のおすすめ食材」として毎月テーマを変えて特集
効果
他店にはない独自性が生まれて「このショップならでは」という価値を提供できます。
加えて自店舗のブランディング強化にも繋げられる施策です。
運用のポイント
・独自ルールは分かりやすく、覚えやすいものに(毎月◯日は▲▲の日)
・告知を徹底(メルマガ、SNS、ショップ内のトップページ)
・継続することで「恒例行事」として定着させる
【補足】時間限定の低価格版について
例えば100g・1,000円で売っている商品を、900円の別商品として登録して指定期間だけ販売する方法です。ただし、使用しているECシステムによってはクーポンによる制御の方が楽な場合もあります。
価格の違う同一商品を増やすのが手間になることもあるため、ECの仕様に応じて検討してください。
6. 季節の先取り・後追い商品
季節商品を「早めに出す」「遅めに残す」ことで、購買機会を拡大する方法です。
具体例
・先取り: 夏物を5月に先行発売(「早めの準備を」と訴求)
・後追い: 9月に夏物の在庫を「残り物セール」として販売(お得感を訴求)
・逆張り: 真夏に「来年の冬物を今だけ特価で」として販売(計画的な顧客向け)
効果
通常の季節販売だけでなく、前後にも販売機会を作ることで、年間を通じた売上の平準化と拡大が可能になります。(シーズン中に探す平均的な客層+先行して探す少ない客層の両方を取り込む)
運用のポイント
・先取りは「準備の良い方向け」として高単価で販売
・後追いは「お得感」を前面に出して在庫処分価格
・逆張りは「計画的にお得に買いたい方向け」として少量販売
時間軸施策の年間カレンダー例
時間軸施策を効果的に運用するには、年間スケジュールを立てることが重要です。
以下は、取扱商品が食品と仮定したショップを例にした年間イメージです。
| 月 | 季節・イベント | 施策例 |
|---|---|---|
| 1月 | 正月・成人式 | おせち関連、新年セット |
| 2月 | バレンタイン | チョコレート、ギフトセット |
| 3月 | ホワイトデー・卒業 | お返しギフト、春の新商品投入 |
| 4月 | 入学・新生活 | お弁当の冷食、一人暮らし応援セット |
| 5月 | GW・母の日 | 行楽グッズ、ギフトセット |
| 6月 | 父の日・梅雨 | ギフトセット、保存食 |
| 7月 | お中元・夏本番 | ギフトセット、冷たい麺類 |
| 8月 | 夏休み・お盆 | BBQ用品、帰省土産 |
| 9月 | 敬老の日・秋の始まり | ギフトセット、秋の新商品 |
| 10月 | ハロウィン | パーティー用品、限定パッケージ |
| 11月 | 創業記念日(独自) | 限定商品、感謝セット |
| 12月 | クリスマス・お歳暮 | ギフトセット、パーティー用品 |
このように1年間を俯瞰することで、どの時期にどんな商品を投入するかが明確になります。
また本記事の「商品ラインナップのみの改善」という趣旨から外れますが、購買率を上げるのなら季節イベントに連動させた割引クーポン・セールの開催も効果的です。
時間軸施策を成功させる3つのポイント
ポイント①:告知を徹底する
どんなに良い商品を時間限定で出しても、顧客が知らなければ意味がありません。
ウェブ上だけでなく、リアルの店舗があればアナログでの告知も手を抜かず、人々に認知してもらうことが重要です。
・メールマガジン(購入者リストに配信)
・SNS(Instagram、X、LINEなど)
・サイトトップページにバナー設置
・自店舗があれば店内にショップイベントの告知POPを毎月入れ替え
ポイント②:リズムを崩さない
「毎月第1週に新商品」と決めたら、それを守り続けることが大切です。
顧客は「このショップはいつ新しいものが出るか」を覚えてくれます。リズムが崩れると、信頼を失います。
ポイント③:データを見て改善する
時間軸施策を実施したら、必ず効果測定をしましょう。
優先して確認すべき指標は以下のとおり。
・施策期間中の売上(施策していない前年と比較)
・顧客の購入回数の変化
・新規対既存の購入比率
・時間軸商品のページ閲覧数
効果があった施策は継続・拡大し、効果が薄かった施策は見直しましょう。
【補足】時間軸施策が効果的でないケースもあります
紹介した時間軸施策は多くのショップで再現可能ですが、以下のケースでは優先度が下がります。
ケース①:そもそも商品ラインナップが少ない
縦横軸での商品拡充がまだの場合、まずそちらを優先してください。
定番商品がない=固定客が付いていない状態で限定商品を出すのは方向性が違います。
ぜひ『前回の記事』を見て、商品の「量と種類」を整えてください。
ケース②:顧客数がまだ少ない(100名未満など)
時間軸施策は「既存顧客のリピートを増やす」ことが主眼です。
顧客数自体が少ない場合、まず新規顧客獲得に注力した方が効率的です。
まとめ:時間軸を加えて年間LTVを引き上げよう
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
最後にもう一度、重要なポイントをおさらい!
時間軸施策がもたらす効果
時間軸とは1年間を通じて商品ラインナップに「時間的な動き」を加えることです。
結果として、顧客の年間購入回数が増え、LTV(年間客単価)が向上します。
- 既存客の購買機会の創出(季節やイベントに合わせた「今買う理由」)
- 希少性・時限の演出(「今しか買えない」という心理的効果)
- 顧客の訪問促進(「来月は何が出るんだろう?」という期待感)
6つの時間軸施策
- 季節商品の販売
- ギフト需要に備えた商品展開
- 意図的に在庫を調整して時限性を持たせる
- 新商品の定期投入リズムを作る
- オリジナルの時間軸を作る
- 季節の先取り・後追い商品
今日から始められるアクション
- 年間カレンダーを作成
- 1年間の季節・イベントを書き出す
- 各月にどんな商品を投入するか計画を立てる
- まずは1つの施策から始める
- 来月の季節商品を1つ用意する
- 毎月第1週の新商品投入を始める
- 告知体制を整える
- メルマガ、SNSで施策を告知
- サイトトップに「今月の特集」を設置
- 効果測定を忘れずに
- 購入回数の変化を追跡
- 効果があった施策は継続・拡大
最後に
前回の記事で、縦横軸による商品ラインナップの「量と種類」を整えました。
今回の記事で、そこに「時間的な動き」を加えることの重要性をお伝えしました。
Webショップの売上拡大は、「基礎(縦横軸)」と「応用(時間軸)」の組み合わせです。
既存顧客が年に2回しか買っていないなら、時間軸施策で購入回数の増加が狙えます。これが実現すれば難易度の高い新規顧客の開拓よりも簡単に、既存顧客ベースによる売上増が実現可能です。
まずは年間カレンダーを作るところから始めてみてください。